米英仏、シリアの化学兵器関連施設を空爆 https://t.co/aTwkILlAeg
— ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 (@WSJJapan) 2018年4月14日
シリア・アサド政権による化学兵器を使用した自国民への攻撃は
なぜ繰り返されるのか。その訳とはいったい何なのでしょうか。
幼い子供までが尊い命を奪われる惨劇が昨年に続きまたも起きてしまいました。
アメリカは国際機関が化学兵器の使用を認定する前にすばやく行動し
イギリス、フランスと共に首都ダマスカス近郊の化学兵器関連施設3カ所を空爆しました。
正義の攻撃の裏に見え隠れするアメリカの思惑とは何でしょうか。
また、アサド政権を擁護し続けるロシアのプーチン大統領は
今回の空爆を痛烈に批判しています。
ロシアはなぜそこまでしてシリア・アサド政権を擁護するのでしょうか。
中東の歴史的背景をひも解くとその答えが解ります。
大国ロシアの思惑とは、いったい。。。
シリア・アサド政権はなぜ自国民に対し化学攻撃をするのか、その訳とは?
シリア国内は長い間内戦が続いています。
アサド政権と反体制派による内戦です。
今回は反体制派の拠点だった首都ダマスカス近郊の東グータ地区のドゥーマで
アサド政権側が化学攻撃をし、数十人の死者と数百人の負傷者が出ている模様です。
被害者の症状からサリン系の神経剤が使用された疑いが有るようです。
東グータは、2013年からアサド政権軍に包囲され、2018年2月にアサド政権アサド政権軍による
大規模な攻撃が行われました。この攻撃により民間人1,600人以上が死亡しています。
東グータの制圧は、アサド政権にとって、悲願でもありました。
今回のアサド政権による化学攻撃も悲願成就のための手段だったと言えましょう。
また化学攻撃は、ほかの地区の反体制派すべてに恐怖心を植え付ける狙いもあります。
つまり、アサド政権による化学攻撃は、反体制派を制圧する為の手段なのです。
アサド大統領「シリア情勢に対するコントロール喪失を西側は認めよ」https://t.co/yB20bK0HjJ pic.twitter.com/kzJUJTXtTG
— Sputnik 日本 (@sputnik_jp) 2018年4月14日
では、アサド大統領は何を恐れているのでしょうか。
それは、自分が、第二のフセインやカダフィになってしまうことです。
アサド政権は、シリアの少数派シーア派とその分派であるアラウィ派で占められています。
イスラム圏では、スンニ派が多数派であり、シリアの国民の大多数もスンニ派です。
アサド政権は、大多数のスンニ派からのクーデターを恐れています。
そのため、その人々を押さえつけてきたわけです。
当然不満が募り、各地でアサド政権と反体制派による内戦が続いていたのです。
少数派のよるアサド政権維持を恐怖政治に委ねるしか、生き残る道が無いというのでしょうか。。
ロシアはなぜシリア・アサド政権を擁護するのか
これには、歴史的な背景と、ロシアの国益が絡んでいるのです。
ひとつには、ロシアとシリアには人的な結びつきが有るということです。
ロシアは、ソ連時代に経済力を付ける目的でシリアに兵器の供給をした時代が有りました。
その際、兵器を操作する訓練をするためにシリア人男性達がソ連に送り込まれました。
そこで、シリア人男性とロシア人女性との結婚が増え、
多くのロシア人女性が、帰国するシリア人男性と一緒にシリアに渡ったのです。
その数は2~3万人にも上り、子供も合わせると、数万人ものロシア系の人々が
アサド政権の支配地域で生活をしています。
ロシアは、そのロシア系の人々を守りたい考えが有ります。
これが、ロシアがアサド政権を擁護するひとつの理由です。
ふたつめは、
ロシアが影響力を及ぼし得るシリア政権に対して、欧米が軍事介入することに反対だからです。
例えば、自分の言うことを聞いてくれるかわいい後輩が
自分と敵対している人から言うことを聞かされでもしたら面白くないでしょう。
それと同じような感じなのではないでしょうか。
歴史上、ロシアはこのようなことを体験しており、同じ轍は踏まないとの姿勢があります。
では、どんな歴史が有るのでしょうか、見ておきます。
2010年末にアラブ諸国の民主化運動が始まりました。
いわゆる「アラブの春」です。
ロシアと仲が良かったリビアでも反政府運動の兆しが有りました。
時の独裁者カダフィ大佐は、反政府勢力を虐殺しようとしていたのです。
これに対し国連安保理は、
反政府勢力の市民を守るために人道的な軍事介入を認める決議をしました。
この決議の際、ロシアは拒否権を行使せずに成立をしていました。
これによって、独裁者カダフィ大佐が率いるリビア軍は進軍できず、
市民の虐殺に至ることは無かったのです。
ところが、NATO軍は人道的軍事介入の線を越え、介入拡大を続けて、
ついにはリビア軍を解体するまでに至りました。
最後は、カダフィ大佐が殺害され、リビアの独裁政治も終わりました。
これに対して、ロシアは怒りをあらわにしました。
ロシアは、反政府勢力の市民をリビア軍から守るための人道的軍事介入を認めていたのであって、
カダフィ政権を終わらせるための軍事介入を認めていたわけではなかったからです。
プーチン大統領「侵略行為」と欧米を非難 https://t.co/iQtQnNGQnp
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) 2018年4月14日
ロシアのプーチン大統領は、この歴史的事実に対し、
欧米諸国に欺かれた、との認識を持っているのです。
このため、リビアの二の舞を繰り返したくないロシアは
アサド政権に対する軍事介入を認める国連安保理の決議の成立を拒み続けているのです。
そして、ロシアが、シリア・アサド政権を擁護する三つ目の理由です。
シリアには、ロシアが中東で使用できる唯一の軍港であるタルトゥースがあります。
ロシアにとってタルトゥースは重要な軍事拠点です。
もしもアサド政権が崩壊したならば、この軍事拠点を失う可能性が高いからです。
今後もタルトゥースを使用し続けるにはアサド政権が好都合なのです。
シリア・アサド政権に向けて空爆するアメリカの思惑とは
アメリカ空爆の大義は、化学攻撃を行ったアサド政権の化学関連施設を崩壊し
罪のないシリア人民の殺害を止めさせ、アサド政権の暴挙から救うことです。
また、このような化学兵器の使用を是認することは、
今後のアメリカの安全保障を脅かすことになるので、放っておくわけにはいかないのです。
アメリカトランプ大統領は、昨年中国との首脳会談の最中にシリアを攻撃しています。
これは、驚きだったのですが、中国へのけん制に有効でした。
今回は、北朝鮮との首脳会談を控えた中での空爆です。
いざとなれば、アメリカはすぐさま軍事行動に踏み切るんだという
強いメッセージを発信することが出来ました。
北朝鮮への威嚇を申し分のないタイミングで行うことが出来るというアメリカの思惑でした。
シリア情勢については、ロシアが主導で終結に向かう流れでした。
しかし、今回の空爆で、アメリカも発言力を確保し
プーチン大統領に一目おかれる存在としてアピールする狙いがあったのでは、と推測されます。
そして、今回の空爆は、トランプ大統領にとって、
ロシアと対抗する姿勢をアメリカ国民に見せつけ、支持を獲得するまたとないチャンスだったのです。
“Trump just took a giant step towards actual welfare reform” https://t.co/LQlACDDLug
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年4月11日
まとめ
シリア・アサド政権は、反体制派によるクーデターのチャンスを握りつぶす為に
反体制派の拠点に向けて、化学攻撃を仕掛けました。
反体制派といえども自国民を殺害する行為は到底容認できるものではありません。
アメリカは、人道的軍事介入として、イギリス、フランスと共に化学関連施設を空爆しました。
ただ、化学兵器が使用された証拠を示さないまま、
国連安保理の決議を経ることなく行われた空爆の是非が問われています。
歴史的にも人的にも軍事面でもシリアと密接な関係を持っているロシアは、
仲間を守るため、常にシリアを擁護する姿勢を続けています。
アメリカは、人道面や自国の安全保障の観点から化学攻撃を容認することはできないので
空爆に踏み切りました。
これは、北朝鮮への威嚇にも有効ですし、
ロシアに対するアメリカの発言力を確保したい狙いがあります。
また、トランプ大統領が、アメリカ国民からの支持の獲得にも一役買ったと言えます。
米ロの思惑はそれぞれですが、
シリアを舞台とした米ロの代理戦争の様相を呈してきたことも事実です。
シリア情勢にまたもや首を突っ込む形となったアメリカをはじめイギリス、フランスも
混迷を深めるシリア情勢の事態打開策を示す必要があるのではないでしょうか。
アメリカはロシアと事前協議の上、短期的、限定的な空爆でロシアに被害を
及ぼさない一定の配慮をしたことで、ロシアの応戦には至らずに済みましたが、
ロシアは今回のことを面白く思っていないはずです。
今回の事が引き金となり、第3次世界大戦が勃発することのないよう、
わたしたち日本も対岸の火事として傍観することなく主体的に解決の道を考える時ではないでしょうか。